前回のエントリーの続き。。。
前回は、今回の紫川アート市でなぜティーンエイジャーとのコラボにこだわったか…に話がそれたが、いくら理屈をこねてもそれで面白いものができなければ何の意味もない。人はコンセプトで心動かすわけじゃなく、面白いかどうかが重要だ。(説明読まないと意味わからん現代アートみたいな)
そこで、ティーンのいいアーティストがいないかと探り始めたが、それほど簡単じゃなかった。
夏の紫川夜市では音楽やってるティーンを募集して、こっちはすぐに反応があったが、アートは少々勝手が違った。考えてみると10代で最高傑作を生む音楽家や詩人はたくさんいるが、画家はあまり思い浮かばない。アートは成熟を必要とするのかも…。
ポスター、チラシを作る期限が迫り、さすがに無理かとあきらめかけたとき、ついに出会ったのだ。あの金魚に。
今年の「紫川アート市」のポスターになった絵は「金魚の夢」という染色作品。北九州のひびき高校二年生の喜多村志保さんの作品だ。
ポスターになったものを見るとアート市のために描いたみたいだが、そうではなくてこれは北九州エリアの高校の美術部が出展する展覧会向けに描いたもの。ギリギリのタイミングで、僕らはたまたまその展覧会に行き、たくさんの作品のひとつに金魚があったのだ。
うまい作品は他にもあった。実際、評価の高い絵のネームには赤丸シールが貼られ、その数を多く集めた作品が賞を受賞していたが、「金魚の夢」は一つも赤丸なし。だけど僕にはその絵が輝いて見えた。「ポスターはこれで行こう」と自分の中では即決した。
そして、スタッフと一緒にアポも無くひびき高校に向かっていた。
結果的にはその日は喜多村さんにも美術の先生にも会えなかった。
まぁそりゃそうだよね。事務室の方に僕らが来た趣旨…紫川アート市のことと過去のアーティストとのコラボで作ったポスター・チラシや会場装飾の資料などをお渡ししてその日は帰った。
嬉しいことに、翌日にはご連絡をいただいた。好感触。
後日改めて学校をお訪ねし、本人とご対面。今年の紫川アート市のメインビジュアルに使わせて欲しいという申し出に喜んで!と即答してくれた。
それじゃさっそく…と、もうその日のうちに作品を預かって帰り、撮影のために広告会社に持ち込んだ。急展開!
そして出来上がったのがこんなポスターとチラシ。
ね、おあつらえ向きでしょう。
ところで、紫川アート市では、毎年恒例で実施している企画がある。
「僕らのアートオークション」。
簡単に言うと、“本物のアート作品を買う”ということを多くの人に気軽に楽しんで欲しいということで、アーティストの協力を得て素晴らしいアート作品を川原で青空オークションするという企画だ。
絵やオブジェなどのアート作品は普通はギャラリーで売られるが、ギャラリーという場に足を踏み入れるのは初めての人にはなかなかにハードルが高い。雑貨屋で買ったポスターやポストカード、ちょっとした小物などを飾る人はいくらでもいるが、1点ものの絵をギャラリーで買って部屋に飾っている人はどのくらいいるんだろう?
しかし、本物はやっぱりパワーが違う。その1点があるだけで空間がぐっとオリジナリティのある場になり、自分自身にもパワーがもらえる。毎日過ごす場なら長い間に大きな違いが出てくるはずだ。アートの力はすごいのだ。
アーティストにしても、買ってくれないと次が作れない。
お気に入りの服や靴を頑張って買うくらいの頻度や値段のイメージで作品を買う人がもっとぐっと増えないと、このままじゃレッドデータブックに載ってしまう・・・・。
そして僕は、今年の「僕らのアートオークション」の一つとして、高校2年生の喜多村志保さんにぜひ作品を出品してみないかと持ちかけた。彼女は「やってみたい」と即断した。いい度胸だね。
「今回ポスターにする「金魚の夢」を小さくした作品を作るのが一番いいよ」と僕はアドバイスした。この絵はこれからポスターやチラシになってたくさんの人の目に触れるし、そうなれば必ずあれが欲しいということになる。ただし原作はちょっとでかすぎる。横幅でも1m以上あるような作品を飾れる壁は普通の家にはそうそうない。セルフカバーで小さい作品を作ったら欲しい人がきっといるだろう。
そして彼女は実際に作った。「金魚の夢」の小品。
いいじゃない、なかなか。
そして、オークション本番! 周りも本人もドキドキだ。
結果・・・たしか1,000円からスタートしたオークションは何度か入札が入って競り上がり、最終的には6,000円でハンマープライスだった。
六千円。
安いとか高いとかそんなこと問題じゃない。
これまで 学校の授業で描いていたのと、今回オークションで人に買ってもらうために描いたのでは大きな差があるし、実際にその作品を欲しいと何人もの知らない人が手を上げてくれて、その人のお財布を開いて喜んで買ってくれたのだ。そりゃぁもうスゴイことですよ!
喜多村志保さんも舞い踊るほど嬉しかったに違いない。
一人の作家の誕生の瞬間だった。
金魚が飛んだ。