札幌の中心部からクルマで30分ほどの場所に、「作品」と呼べる公園があることをご存知でしょうか?
20世紀のアメリカを代表する彫刻家・造形作家のイサムノグチが最後に残した宝物のような公園『モエレ沼公園』です。
2005年にこの公園が完成したときに、僕は東京FMの朝の番組でその話題を電話取材をしたことがありました。しかしそれから11年。すっかりモエレ沼公園のことは忘れていたのですが、今回札幌を発つまでに半日あるので…とスマホをいじると何やら妙に魅かれる公園の名前が・・・ということで、札幌の友人Tさんに頼んで連れていってもらうことにしました。
イサムノグチの奇跡の遺作
実はここは元々、札幌市がゴミの埋め立て地を公園にすることを計画していたものでした。
その公園のデザインを、世界的なアーティストのイサムノグチに頼んでみては…と考えた札幌の人のセンスは素晴らしいけど、そもそもノグチはこうした公園を作りたいというイメージを長く持っていて、信じられないほどサクサクと話は進んでいきます。
最初にNYのノグチの元にその話が持ち込まれたのが1988年の初め。そして3月にはノグチは初来札します。この年にノグチは4回も札幌を訪れていて、一気にイメージを図面や模型にしていき、11月に日本で行われた彼の84歳の誕生日パーティでモエレ沼公園のマスタープランは早くも発表されます。
そして、なんと翌月の12月に、ニューヨークの病院でノグチは急逝するのです。まさに人生最後の年に神がノグチにさせたかのような仕事です。その後、ノグチの遺志を引継いだ札幌市がイサムノグチ財団のサポートを受けながら17年の歳月をかけて完成させました。まさにイサムノグチの「奇跡の遺作」といっていいのがこのモエレ沼公園なのです。
公園全体が作品であり、そこで遊ぶ人もまた作品の一部
公園のシンボルでもあるモエレ山。まずはこのモエレ山の山頂に登ると、公園全体の姿が把握できます。
標高62mの富士山型の小山ですが、これはすべて札幌のゴミでできているんだそう。へえ〜!!
日頃の運動不足がたたってかなり息を切らせながら山頂まで登っていきます。途中の景色も何とも美しい。
10分ほどがんばって登るといよいよ山頂。山頂は直径15mほどの円形広場になっていて、家族や恋人たちがとにかく楽しそうな時間を過ごしています。
視界は見事に360度。ノグチがデザインした不思議な広場やモニュメントが眼下に広がります。
一つ一つの紹介は割愛しますが、とにかくいちいち美しい。こんな公園見たことありません。
代々木公園やニューヨークのセントラルパークのような、いわゆる「公園」の感じとはずいぶん違います。巨大な遺跡群のイメージに近いのです。なんと言うか・・・非常に「作品感」が漂っています。マヤやエジプトやローマの遺跡であれば、古代人が何かの意図でとなるところでしょうが、ここは間違いなく20世紀の終わりにイサムノグチというアーティストが意図をもってデザインしているので巨大な作品に間違いありません。
似たようなものとしては、スペインバルセロナのグエル公園でしょうか。建築家ガウディのデザインした公園です。
しかし僕の印象では、グエル公園の場合は公園の中にガウディの作品がたくさんあるというイメージ。それに対してモエレ沼公園の場合は園全体がイサムノグチ作品というのが大きな違いです。
建築家の設計する建築物の場合、基本的にはその建物だけが作品のイメージが強いのですが、このモエレ沼公園の場合はそれとも違います。この作品はここで遊ぶ人たちの笑顔や子供たちの声までがあって初めて完成する、イサムノグチの最高傑作なのではないでしょうか。
すごい!
公園の林の中には小さな小さな、しかし間違いない「海」があった
この公園で最後の最後に完成したのは、「海の噴水」という噴水です。まさか噴水まではさすがのイサムノグチも作らなかったろうな〜と思って後でパンフレットを見れば、なんとノグチはずっと噴水の研究をしてきたのだとか。これは、巨大な水の彫刻だったのです。
この噴水、普段は大きな「お釜」みたいな不思議な姿をしていて水はまったくありません。時間を決めて15分のショートプログラムと40分のフルプログラムとが「上演」されるエンターテインメント型の噴水です。
我々は、ちょうど運良く40分のフルプログラムを見られました。
いや〜、この噴水はすごいですよ! こんな噴水見たことない!(そればっか言ってるけど)
なんとこの「お釜」が見る見るうちに「海」へと変身するのです。もうどう見ても海。(たまに巨大な洗濯機にも見えるけど・・・)
特別にダイジェストで少しお見せしましょう。
イサムノグチはきっと、公園の中に山があって林があってその林の中に小さな海があったらオモシロイだろうなぁと思ったに違いありません。うんうん、実にオモシロイ!
世界遺産級の公園がほとんど知られていない
しかしこのモエレ沼公園、日本人で知っている人は数少ないのではないでしょうか。
連れていってくれた友人の話でも、札幌での知名度もさほど高くないらしい。「あぁあるね〜」くらいなものだとか。
この公園のすごさは、もっと世界的に評価されてもいいと思いますし、こんな世界遺産級の公園が無料で入園し放題なんて札幌市民はその幸せさをもっと認識してもいいようにも思うけど、あまり混むのもまた何ですしね〜。
人の居具合いはいまくらいでちょうどいい感じなので、ノグチさんの作品的にはまぁちょうど良いのかもしれません。
もしかして、そんなことまでプログラムしていたのか!? 恐るべき、イサムノグチ!
素晴らしいサタデー・イン・ザ・パークの時間を、ありがとうございましたTさん!