初音小路という小さい路地がある。

かつて、浅草にひょうたん池があった頃には、

それは賑やかな通りだったらしいが、今ではだいぶひっそりしている。

ひょうたん池を埋めた跡にできた場外馬券売り場に集う客たちのオアシスみたいだ。

 

あげまんという小さな店で、たまたま隣合わせたおじさんの事を書いておきたい。

 

そのおじさんはとても楽しそうだった。

で、浅草好きなの?と聴くと「まあまあさぁ」と笑顔で答える。

僕はその「まあまあ」にしびれたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

おじさんは68歳。

沖縄から若い頃出てきて東京や神奈川で働き、今は無職で千葉に一人で住んでるらしい。

結婚は?と聴くと、「いやぁチョンガーさぁ」と少し照れた笑顔で答えてくれた。

 

「若い頃は付き合った人も居たんだけどさ、手ぇケガしてから別れた」

おじさんの右手人差し指は半分しかない。まぁなんかいろいろあったのだろうな。

 

お金が入ると浅草界隈に飲みに出て、マンガ喫茶に泊まって帰るのが楽しみなんだとか。

今日来たこの店は初めてだったそう。

とてもそうは見えない馴染みぶりだったのは、おじさんの年季の入った人懐こい笑顔のせいだろう。

あまりに初音小路にぴったりだ。

 

だけどおじさんはギャンブルはしないそう。

飲み屋の勘定の事も気にしてて、足りないなんてことにならないように、

ちゃんと考えてるのさぁと満面の笑顔で答える。

 

向島には昼間5時間いても2000円ポッキリの店があって、

なんと焼酎とつまみがフリー、カラオケ歌い放題!友達と演歌を心行くまで楽しむとか。

まことにささやかだ。ささやかなこの人生。

 

68歳の沖縄出身のおじさん。

家族も財産も仕事もないけど、ヤケ酒でもギャンブルにはまるでもなく、

満面の笑顔でささやかな楽しみを満喫している。

 

すげ〜な、この人は!と思った。

そして、この店いいお店でしょ?浅草いいでしょ!?と聴いた

ツレの質問に返した言葉が、「まあまあさぁ」だった。

 

みんな「サイコーさぁ!」と言ってくれるのを期待した

その場面で出た「まあまあさぁ」のキメ台詞。

 

そうだよね〜。
まあまあだよね。

 

最高じゃないかもしれないけど、そんなに悪くもない。

それでいい。それがいい。

幸せって、まあまあってことなのかもしれない。

 

もう完全に参りました!

今夜は大事なこと教わりました。

おじさんのまあまあな人生に乾杯です。