メディア・プロデューサー/「メディア化」コンサルタント トミタプロデュースの富田剛史です。私の主要テーマである「メディア」を考えるには【時間】と【場所】という要素がとても重要です。2020年、それがこれまでとは大きく変わろうとしています。どういうことか?

コロナウイルスは「新時代の津波」

ウイルス対策というより「メディアの変化」により起こる変革が『アフターコロナ』の時代を考えるポイント

これまでも何度か書いていますが、改めて指摘しておきましょう。

アフターコロナ時代の変化を見るのに最重要なのは「ウイルス対策」ではありません。「オンラインの時間」の増加です。

2020年、ビジネスマンはもちろんのこと、小学校から大学まで学生も先生も、ロック、ポップス、ジャズや演劇から伝統芸能まであらゆるエンタメも、主婦も女子会も、里帰りも、結婚式も葬式も法事も・・・これまでネット回線に乗っていなかった「時間」が“オンライン”になりました。

そしてそれとは反比例して、リアルで人と会う時間と移動時間は減っています。

今年2020年は、老若男女・各分野に「ライバー」といわれる新種のスターが登場し、様々な試行錯誤を繰り返しています。その中で、生対面では再現できない魅力も徐々に生まれてきています。テレビ創世記に、映画や舞台人に「あんなの所詮…」といわれてもテレビ独特の表現を模索した人たちのように。

数年すれば、生の舞台とテレビのどっちがいいか? というようなあまり意味の無い問いをする人は減っていくことでしょう。この動きは不可逆なのです。

これがどのような変化につながっていくのか、改めて考えてみましょう。

オフィス、家、オフィス街、繁華街、住宅街、地方/中央・・・これまでの常識がひっくり返る!

これまでの常識ではこんな感じでしょうか。

オフィス:社員が集って仕事をする場
オフィスビル&オフィス街:大企業を中心にビジネスマンが集う街
繁華街:オフィス前提の飲食店街/大型百貨店などを軸にした商業街

自宅:「オフ:仕事以外の時間」を過ごす場
家族:「オン:仕事時間」には入ってこない存在
住宅街: 「オフ:仕事以外の時間」を過ごす町、お店も地域住民向け

中央:「オン」が高密度で集中し、効率に向け加速する場
地方:薄めの「オン」と、「オン/オフ混同」のゆるやかな場
観光地:主に中央の人に「オフ」を提供する場

それが、

仕事はオフィスに出勤して、たくさんの企業が集まるオフィス街でするものではなくなり、逆に自宅ではパパもママも子どもたちもそれぞれの「オン」の時間を過ごすことも増える・・・

となるわけです。

これまでは、「時間」=自分がいる場所に流れている時間で、誰かと時間を合わせるとは、同じ場所に居ることでした。ところが今年一気に普及したオンラインライブでは、別の場所の時間がつながります。

人々のライフスタイルや街の成り立ち方がガラリと変わるに違いありません。

プロジェクトの時間、生身の体がある場の時間

「プロジェクト」は、オンラインに乗り、強者と弱者の差を縮める

仕事や学校、学校の勉強以外でも様々な学び、それらに必要な誰かとの出会いや交流・・・といったものは、仮に「プロジェクト」と呼んでみましょう。

目的性があり、何らかを「達成」しようとするような時間です。

オンラインを通じて楽しめるエンタメなども、プロジェクトの仲間に分類してみます。仕事や学びとは違いますが、目的性はかなりハッキリしているので。

これらの時間は、基本的にオンラインに向いています。しかも、「ライブで繋がるようになったこと」が新時代の大きな変化です。

距離も、体力も、腕力も関係なく、地方在住者、子育てや家事負担が大きかった女性、身体障害者、マイノリティ…といった人たちが、これまで物理的に難しかった『プロジェクトへの参加』がしやすくなります。

貧富の差も、リアルよりは超えやすい。言語の壁が機械翻訳で崩れれば、国境すらも超えるはずです。それは「途上国」に眠る可能性を大きく引き出し、「先進国」の人にも精神的・文化的な影響を与えることでしょう。

どこかにしか置けぬ「生身の体」は、リアルな喜びを交わす場をひとつ選ぶ

一方で、美味しい食べ物や、風や潮や大地の匂い、手触りや肌のふれあい・・・といったことは、生身の身体でしかその良さを感じることは困難です。

生身の身体がある場の時間は、オンラインの時間のように瞬間瞬間で違う場に置くことはできません。時おりの「旅の時間」を除けば、どこか一箇所を選ばざるを得ない。

これまでは、通勤に便利な何々沿線…や、目的の学校のある町…など「プロジェクト」を前提に住む場所が選ばれていました。ところがプロジェクトの呪縛から生身の身体が開放されたらどうなるか。

それなら、釣り人やサーファーは海辺に、山が好きな人は山の近くに住むでしょう。歌舞伎が好きな人は東京に、フラメンコが好きな人はスペインのセビーリャに…国境や人種の垣根を超えて暮らしはじめるかもしれません。そこに、生涯の友や仲間ができれば最高です。

「ふるさとは遠きにありて想ふもの…」だった時代が昔のことになり、子供たちが「これどういう意味?」と真顔で問う日はもう間もなくだろう

オンラインでのプロジェクトと身体があるエリアでの活動と、どちらかが仕事でどちらかがプライベート…ではありません。オンラインでの仕事もプライベートもあれば、生身があるエリアでの仕事もプライベートもあり得ます。

オンラインと生対面では、それぞれ醍醐味や特色、得られる満足感も異なります。どちらかだけではなく、多くの人がオンラインの時間とオフラインの時間を、24時間の中でどちらも大事にしはじめることでしょう。

生身の身体がどこにあろうと、プロジェクトに参加して達成感を得る時間と、生身の身体がある場所を五感で楽しむ時間のバランスを取るというのが、【新時代のライフスタイル】ではないでしょうか。

昔の人は、ふるさとを離れて都会の刺激や大きな夢を求め、その多くは夢破れてもふるさとに帰ることもなく、狭くゴミゴミした都会の暮らしにうんざりしつつ折り合いをつけながら生きてきた…というのが一つの典型的なパターンで、そこに様々な物語や詩が生まれ、音楽や映画になっていったわけです。

ところがそれが、ふるさとに限らず「自分の好きなロケーション」を離れることなく仕事やプロジェクトという点では自分の夢を実現できる時代になったのです。

そのとき、街やオフィスや家は、会社や学校の形は・・・どのように変わるのでしょうか。「ロケーション」が持つべき魅力とは何でしょうか。

今はまだ時代の変わり目の突端で、そう簡単に出る答えではありません。少し時間をかけてゆっくり考えていきましょう。未来が見えてくるかもしれません。